武則天 #81 すれ違う心

 雉奴は自分が死んだ後のことを媚娘に託そうとしたり、自分の代で唐が終わってしまうと言い出し弱気になっている。

 

 瑞安は、媚娘に相王が献上した蒙頂茶のうち一箱に猛毒の馬銭が盛られており、敏月と関わりのある者が相王府に滞在していること、李賢の側近の者が李弘の殺害を画策した者がもう一人いると供述したことを報告した。

媚娘は、毒が盛られた蒙頂茶を合璧宮へ送るよう指示する。

 

 向かい合う媚娘と敏月。媚娘は

 「言ったわよね。姉の死は自業自得」

 「なぜ信じぬ?」

 「復讐のため長安に戻り、陛下を奪って私を殺すのは理解できるわ。

  なれど弘はむかんけいよ、なぜ弘を殺したの?」

と敏月を責める。

敏月は、立ち上がり「最愛の子だからよ」と叫ぶ。

「天后様を守れ」瑞安が敏月の前に立ちはだかる。

媚娘は「おやめ、じきに死ぬ者を恐れる必要はない、おさがり」と言い放つ。

それを聞き笑う敏月は媚娘に

 「陛下を奪った後あなたを殺すことが私の復讐だとでも?

  違うわ、到底足りない

  あなたの眼前で最愛の息子を殺して陛下から疎まれるようにも仕向けた。

  大事なものを全部奪ったの。

  どうでした?寝ても覚めても失ったものの多さに恨みが消えぬ気分は」

という言葉をぶつける。

媚娘は、李弘は最期に敏月に注意するよう警告していたのだと気づいたと明かした上で

 「皇太子になるため李賢が、李弘を手にかけたことで眠れなくなった。

  陛下に疎まれどれほど悩んだか

  敏月、望みは全て果たしたでしょう、私は大事なものを全て失ったわ

  でも元凶はあなたではない」

と話す。

敏月はあざ笑い

 「こう言いたいの?

  息子たちは権力欲に毒された

  陛下も世の男と同じ移り気で目新しい女子を欲した」

と言い返す。

媚娘は、敏月の目的は本当に復讐なのかと疑いを投げかけ

 「人というものは、己の善意や恨みを誇示するわ

  でも欲望については恥じて隠そうとする」

 「あなたは」

そう言って敏月の顔をぐいっと引き寄せ

 「入宮した頃の私にそっくりよ」

 「敏月、私に言ったことを覚えている?

  “長安へ行きます 後悔はしません”

  後悔しないのなら安心して逝くがよい」

と言ってから湯飲みを敏月に手渡す。

敏月は、震える手で湯飲みを受け取ったが、なかなか飲むことができない。

しばらくして媚娘の背中に湯飲みが転がる音が聞こえた。

転がった湯飲みの上に吐血の跡が‥。

 

寝床に横たわる敏月の亡骸。

近くには媚娘と瑞安がいる。

そこへ雉奴が慌ててやって来た。

敏月の亡骸を見て悲しむ雉奴は、媚娘に、ここに来るまでは媚娘が敏月に手を下したりしない、皆の虚言に違いないと思っていたと激しい感情をぶつける。

媚娘は、「今回は私が殺めた」と冷静に認めた。

雉奴は、怒りなら自分にぶつけるべきだと憤り

「敏月は何も知らぬ無辜の娘だぞ

 姪を殺すとは無情すぎる」

と言い責め立てた。

媚娘は、「陛下を誘惑した報いです」

と激しい感情をぶつけ

 「その理由では足りませんか」

と続けた。

 「媚娘、朕の想いを‥」

 「わかりませぬ、わかりたくもない

  陛下、私を冷酷だとお思いですね

  今後は一切陛下の決断に関わりません」

媚娘は、そう言って立ち去った。

 「媚娘‥」涙ぐむ雉奴。

 

 朝議の場で雉奴は、李義府を名指しして奏上文を床に叩きつけ、李義府の行状を持ち出し批判した。

李義府は「罰を受けます」と言った。

助け舟を出そうとする許敬宗を李義府は目で制した。

李義府は、宰相の地位を剥奪、官籍からの除名の上、しゅん州に左遷、子ども達も厳罰が下され、二度と長安に戻れないことになった。

 掖庭に入れられている李義府を訪れた媚娘は、李義府がこうなったのは自分が原因だと話す。

李義府は、「滅相もない」と返し、媚娘のおかげでここまで上りつめてきた、悲惨な末路だがこの世の栄華を極めることができて満足だと笑顔で話す。

続けて「天后様のさらなる発展を見届けたい」と言った。

媚娘は、自身が禁足処分になったことを明かす。

それを聞いた李義府は、自分が罰を受けたのは敏月の怨みを晴らすためだった気づき、政より女子を優先したと雉奴を非難、この国は、媚娘が守って行くべきと訴える。

だが媚娘は、唯一の望みは良妻賢母になることだと返す。

それを聞いた李義府は、姿勢を正し

 「武才人、武昭儀、皇后、天后、権力を求めたのはただ良妻賢母になりたかったからですか?」

 「先帝の時からあなたは変わらない

  他人のためを装い、ご自分を欺いているだけでは?」

と問い、名声を追ってきた自身は、死んでも後悔はしないと明かした上で

 「良妻賢母として生涯を終えるならどうお感じに?」

 「少しも後悔せず、満足して死ねますか?」

と問うたが、媚娘はそれに答えなかった。

李義府は

 「お願いします。お考え直し下さい」叩頭しながら懇願する。

それを見た媚娘は、酒を一気に飲み干す。

懇願し続ける李義府。

媚娘は何も言わず去って行った。

李義府は、左遷先に追放された後、数年後その地で生涯を終えた。

 

 雉奴の前に跪き、真相を隠していましたと告白する呂進規。

相王が媚娘に贈った蒙頂茶に毒を盛ったのが敏月で、相王に媚娘殺しの罪を着させようとしていたと真相を明かす。

 真相を知り愕然とする雉奴。

そして雉奴に真相を報告しなかったのは、媚娘が陛下の病が悪化するのを恐れていたからで再三口止めされていたと激白し

 「私の罪は万死に値します」叩頭して詫びる。

 「天后は今どこにいる」雉奴は、やっとの思いでそう口にした。

 

 安定と李弘の霊位の前で敵を討ったと報告をする媚娘、そこに雉奴がやって来た。

 「媚娘、いつから朕を信じなくなった

  朕の心を探るため敏月の件を隠したな、違うか」

媚娘は振り返り

 「まさしく」

 「私は陛下の心を探り悟ったのです

  陛下にとって私は、善悪の見境もつかない私欲にまみれた毒婦にすぎぬと」

と真意を明かす。

そして「私の心は変わっていません 変わったのは陛下ご自身では?」

と疑問をぶつける。

まだ疑うのかと答える雉奴に

 「本当に私を信じていますか?」

 と問う媚娘。

ひるむ雉奴に媚娘は続けて

 「わずかでも疑ったのでは?李弘を殺したのは媚娘やもしれぬと

  私が否定しても昔のようには信じて下さらないでしょう」

と問いかける。

 「その通りだ、否定はしない。朕は二度とそなたを信じられぬ」

 「そなたが朕の元に留まったのは、子の敵を討つためにすぎぬ

  朕を助けて関隴集団をたそしたのも復讐のためだ

  朕を想い尽くしたことなど一度もないだろう」

雉奴はそう言って媚娘を責めた。

媚娘は、「その通り」ですと言い、全ては陛下のためではない、李弘を皇太子にするため李忠を陥れた、敏月のことも私を害する気がなくても殺していたでしょうとぶちまける。

そして「それからもう一つ隠してきたことがあります」

と切り出し

「いまだに私の心には先帝がいます。片時も忘れません」

そう言って去って行く媚娘だったが、途中悲し気に少しだけ振り返る。

媚娘の言葉に大きなショックを受けている雉奴。

 

 抜け殻のような雉奴は、李顕を立太子にする詔に玉璽を押した。

 

 月日が経ち-

 皇太子の太師たちは、李顕が向学心がなく享楽にふけっていることと皇太子妃の言いなりで威厳がないと媚娘に訴える。

媚娘は「李顕を廃せということなの?」と怒った。

 

 李顕は、媚娘に対する不満を皇太子妃や義父・韋玄貞に訴えるが、皇太子妃に歯向かえば廃されるので辛抱するよう諭される。

雉奴が死ねば自由になれるという皇太子妃、しかし韋玄貞は、媚娘は寒門と手を組んでおり、雉奴が死ねば唐は媚娘の掌中に落ち、そうなれば李顕は媚娘の傀儡になると忠告する。

李顕は、媚娘と雉奴が共に消えてくれたら言うことはないと話し、それを聞いた韋玄貞は、門閥の意を受けやって来たと明かした上で雉奴と謁見するよう勧めた。

 

 李顕は、雉奴の墓に媚娘を殉葬して下さいと申し出たものの、雉奴に二度と口に出すなと警告された上、却下される。

 そしてそのやり取りを密かに聞いている太監がいた。

 

 太監から李顕と雉奴のやり取りを聞いている媚娘、そこへ許敬宗が韋玄貞が各地で人馬を募り、門閥と密会しているという情報を知らせに来た。

そして許敬宗が手に入れたという璽書には媚娘を雉奴の墓に殉葬するようにという内容が記されていた。

 

 雉奴との謁見から戻ってきた李顕に韋玄貞は、東宮に璽書を運ばせたが、途中で媚娘の配下に盗まれたと明かす。

そして媚娘が見るのは璽書の写しであり、雉奴が書いた本物でないと言った。

それを聞いた皇太子妃は、父親が李顕を雉奴に謁見させたの目的は、璽書の存在を信じ込ませる為だったと気づく。

韋玄貞は、李顕の行動により嘘が誠に変わり、媚娘は勅令を受け入れるしかないと話す。

 

 甘露殿の玉座を一人見つめる媚娘は、太宗の遺詔の言葉を思い出していた。

玉座に一歩一歩近づいていく媚娘の中で、媚娘を殉葬せよという璽書の言葉が甦る。

玉座に上がり、(今日から私は武如意でもなければ媚娘でもない、日と月は空をしのぐ武曌の光は、天下を照らすだろう)と心の中でつぶやく。

筆を手に取り書いた文字は「武曌」。

 

 媚娘は、孝逸から洛陽の行宮を捜査させたと報告を受けている。

そこへ侍女が「陛下が天后様を寝殿にお呼びです」と伝えにきた。

 

 媚娘は、侍医から意識は戻ったものの脈が消えそうで最期に意識が戻っただけで今宵は越せないと聞き、侍医たちを下がらせた。

 

 

~我的感想~

 まさか最終回目前に夫婦関係がもう取り返しのつかない崩壊状態になるなんて思いもしませんでした(涙

余りにもしんどい展開で精神的カロリーをかなり消費しました。

 

 先帝や呉王なら媚娘という人間が「陛下を誘惑した」などという嫉妬が原因でああいうことをすると短絡的に思うだろうかと考えてしまいました。

 

 敏月事件の誤解が解けたにも関わらず、これをきっかけに元に戻る方向ではなく、これまでの不信、不満をぶちまけお互いに致命的な言葉を投げつけ合います。

 媚娘の自分は変わらなかったが、変わったのは陛下自身という指摘に「そうそうその通り!」と思いっきり共感。

一方雉奴の媚娘の事を信じられない理由に挙げた「隠し事ばかりだからだ」に対しても確かにそうだったなと共感。

雉奴は、全てを打ち明けてくれれば受け入れてくれる人だったと思うので、隠し事、それも大事なことを隠され続けてきた上、敏月の件では心を試されたということも重なり「朕はもう二度とそなたを信じられぬ」という言葉になったのかも。

この言葉を言われた時の媚娘の涙ぐむ表情が、美しく辛いです。

多分雉奴にここまで言われると思ってなかったのかなと推察。

そして雉奴の「朕はもう二度~」からの復讐の為にそばにいただけだろ的な発言でスイッチが入る媚娘の迫力が凄かった。

 今雉奴が自分に抱いている媚娘像をあたかも自分の真意のように語る時の、挑むような視線、「これで満足?」な顔、最後の先帝がずっと心にいるという残酷な言葉。

これだけ雉奴を傷つける言葉を言った後、雉奴を背にしてから見せる辛そうな顔。

ここまでいったらもうお互いに無理ですよね。

 このストーリー展開は嫌で見たくないのに演技が素晴らしいのでつい何度も見てしまうシーンとなりました。

 

 ただ、愛らしかった安定と非業の死を遂げた弘の霊前で雉奴と媚娘、二人が醜い言い争いをして夫婦関係をを終わらせたことは許せなかったです。

 

 そして忘れてならないのが李義府さん。

いつも周りを気にする視線で感情を表して相手が強い時は下手に、落ちぶれた人には強気にという非常にわかりやすかった李義府。

そして長年共に過ごした媚娘の本質を鋭く指摘するという重要な役割を演じました!

このドラマの脇役の皆さんが本当に素晴らしい。

中国にたくさんの素敵な役者さんがいることを知ることができました。

 

 年月を経た雉奴が「朕でさえ媚娘の真意が解せぬ」と言います。

やっぱり夫婦関係が修復されることがなかったんですね。

雉奴の二人の結婚生活への思いは言い争いをした時と変わらなかったんでしょうか

お互いどういう思いで過ごしていたのか気になります。

 

 そして触れずにいられない李顕。

かつて若い頃に登場した時は、シュッとした気がするのですが、享楽にふけり両親ともに消えて欲しいと願うダメ皇子そのものになってました。

 

とうとう次は最終回です。

さすがにこれ以上の鬼畜展開はない信じたいです。